Happy Growth Magazine
8月 22

「当事者でありたいと思った」 財務のプロが感じる『PriceTech』と株式会社空の可能性とは

「世界中の価格を最適化し、売り手も買い手も嬉しい世界を作ること」をミッションに掲げる、日本発のPriceTechのスタートアップである株式会社空は、2019年5月、ユーザベースグループの株式会社UB Venturesから資金調達を発表。時を同じくして、堅田航平氏が、財務・コーポレートアドバイザーに就任しました。

堅田氏といえば、モルガン・スタンレー証券に入社した後、08年にライフネット生命の前身であるネットライフ企画時代に入社して上場準備などを担当。13年に執行役員CFOに。14年にスマートニュースに転身し、管理部門の立ち上げや累計86億円の資本調達を主導したことで知られています。

財務のプロフェッショナルはなぜ、プライシング(=値付け)を主幹技術とするPriceTechのスタートアップ企業に深く関わろうとしているのでしょうか。堅田氏へのインタビューを通じて、空という会社に対する期待はもちろん、PriceTechという新しい領域の可能性が見えてきました。

プライシングこそ「経営の根幹」にある仕事

堅田 航平
2003年4月にモルガン・スタンレー証券会社(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)に入社し、投資銀行部門に所属。資産運用会社を経て、開業前のライフネット生命保険株式会社に2008年3月入社。企画・事業開発・上場準備などを担当し、2013年5月CFOに就任。2014年、スマートニュース株式会社に入社しヴァイス・プレジデント 財務担当として管理部門の立ち上げや累計86億円の資本調達を主導。現在は同社アドバイザーの傍ら、複数のスタートアップの財務戦略・経営管理を支援している。

空の基幹サービスである『MagicPrice』は、ホテルのデータ分析を効率化し最適な価格設定を支援するレベニューマネジメントサービスであり、その根幹はプライシング技術にある。堅田氏は実は、この“プライシング”に対して深い思い入れを持つ。というのも、大学卒業後間もなくインドで英文校正スタートアップの立ち上げに関わった際、自分たちのプロダクトの価格設定に苦心した原体験を持っているからだ。

「ものやサービスの値段は、市場における立ち位置であったり、製造原価であったり、プロダクトの競争力であったりを基にして、自由に決めていいもの。ルールはないからこそ、自分たちの信念と戦略が試される、非常に難しいものなんです」。

また、モルガン・スタンレー証券で受けた新入社員研修時のエピソードも、忘れることができないという。「研修が始まってすぐに『企業の値段はどういう風に決まると思いますか?』という問いを立てられたんです。投資銀行での仕事とは、その問いを地でいくもの。IPOのように、これまで市場で取引されていなかったものに対して、適正価格を提示する。これはまさに難解でした」。

M&Aのアドバイザリー業務もそうだ。Aという会社がBという会社を買いたいとした場合、そのプライシングをどうするのか。ものの値段・事業の値段を決めることの難しさを痛感し、そのプライシングこそが、経営の根幹にあるという原体験を、空に出会う前から持っていた。

そして、空の事業についてはこう言及する。「プライシングは、全ての商品・サービスに必要な行為で、世界中で日々意思決定されています。その中でも、“今日のこの在庫は明日には持ち越せない”ホテル業界のレベニューマネジメントにおけるプライシングは、より複雑な意思決定のはずなのですが、実態はとても属人的でアナログなんです。そこで、テクノロジーを駆使して価格の最適化を目指す空のMagicPriceはとても面白いな、って」。

自信の持てるプロダクトと「外向きの矢印」を持っている経営者

ただし、プライシングに縁があったとしても、その会社に介入する立場になるかどうかはまた別の話だ。会社への応援の仕方・関わり方は、いろいろある。例えば、お客さんを紹介する、個人的に出資をするでもいい。

しかし、「財務・コーポレートアドバイザー」という形で、深く関わる決断をしたのには理由がある。「空のことを、当事者として、近くで見ていたいと思ったんです。空の『MagicPrice』は、とても大きなポテンシャルを持つプロダクト。ホテル業界だけではなく、世界中のあらゆる業界にも転用しうる可能性がある。適切な価格設定によって、事業者側はもちろん最終的にお客様をハッピーにできることに魅力を感じているんです」。

代表取締役の松村大貴については、こう語る。「松村さんは、思いや関心が社会に向いている、外向きの矢印を持つ人。様々なハードシングスを乗り越えてきているはずなのに、そういったことを人にはあまり見せない、穏やかさも印象的です。“俺が俺が”というタイプではなく、一本芯が通っている、魅力的なリーダーなんですよ」

会社の置かれた状況や規模感は違うが、自身の古巣であるライフネット生命保険の創業者・出口治明氏や、スマートニュース代表取締役の鈴木健氏と同じ、“外向きの矢印”を感じたと言う。

投資家は仲間。“色のついたお金”を集める

財務・コーポレートアドバイザーとして、堅田氏には一体どのような動きが期待されているのだろうか。「投資家から色のついたお金を集めるために、サポートできること、全部ですね」。具体的には、資本調達のアドバイスはもちろん、投資家選びに投資家たちとのコミュニケーション、社内管理体制の整備だ。

お金を出してもらえれば誰でもいいとは考えていない。株主は仲間であり、その仲間から、思いのつまったカラフルなお金を集めたい。空が、ユーザベースグループの株式会社UB Venturesから資金調達をした背景が、松村がユーザベースのカルチャーや経営哲学を吸収したいと考え、株主として仲間に入って欲しいと依頼したということからも、空の資金調達の姿勢が見えてくるようだ。

また、「財務・コーポレートアドバイザーとして、経営体制、インフラを整えていくのも私の仕事だと思っています」と続ける。スタートアップに教科書はない。特殊解しかなく、誰かが型を教えてくれるという世界でもない。だからこそ、長期的に自分たちはどうありたいか、その姿を実現するために、どうするのか、が重要になる。

「作りたい組織を、理想に基づいて徹底追求すると、法律や上場基準といった世の中からのルールとは、どうしても矛盾するところが出てくる。でも、実現したいことを歪めることなく、ルールからも逸脱しない。そのせめぎ合いをサポートしたいんです」。

青臭くてもいい。HappyとGrowthは必ず同時実現できる

空が標榜する『Happy Growth』というビジョン。これは、一見矛盾する、『経済的な成長』と『幸せな働き方』は両立できるという想いが込められている。Happyとは決して、従業員が居心地の良い組織で働くことだけではない。「その人が自分の可能性を発揮できている状態だ」と堅田氏は捉える。

「Growthとは、事業の成長であると同時に個人の成長も意味すると思っています。

例えばですが、月に行こうと思ったら、プロペラではたどり着けないから、強力なエンジンが必要になります。僕は、今後の空が向かいたい先に応じて、変化するお金や組織の装備を考え、提案し続けるイネーブラー(支え手)でありたいと思っています」。

そして、「青臭いかもしれないけど」と照れくさそうに笑って、堅田氏は胸の内を明かしてくれた。「家族と同じくらい大切な時間を共に過ごす仲間には、皆、幸せでいて欲しいと思うのが自然じゃないですか。

経営者の意思決定に対して、全員で力を集結していこうという時に、外部のステイクホルダーの思いを束ねることはもちろん、社内の一人ひとりのメンバーを誰一人不安にさせずに、力を発揮出来る仕組みをつくる。そのために自分がアドバイザーとしてできることを考え続けたいと思います」。

数々のビジネス現場をくぐり抜けてきた、財務のプロ・堅田氏を迎え、株式会社空はどう進化していくのか。プライシングの領域に興味がある、当事者として作っていきたい方、空に参加するのは今がタイミングかもしれない。

今後の空のキャリア関連やミートアップのお知らせを受け取りたい人はこちら
https://sora.flights/newsletter-subscription/

採用の詳細や、話を聞きたい人はこちら
https://sora.flights/recruitment/

執筆:伊勢真穂 企画・編集:水玉綾 撮影:伊藤圭